不具

夫に尽くし子を愛しみ親戚とも縁戚とも近隣とも誠実に付き合う女がいた。
市の通りを女と供に歩いていたあるとき、女が道の片側からぐっと顔を背けた。何かを見るために顔を向けるしぐさと何かを見ないために顔を背けるしぐさとを人はいつからか見分ける。背けられた眼の元のまとには、こちらへいざり手首から先のない腕を延ばしきた乞食が居た。
多からぬ金を別けることならば惜しむ女ではなかった。女は後日、わたしはどうにも不具の身体を見たくないのだ、どうしても怖ろしい、と言った。