2010-01-02から1日間の記事一覧

蟲打つ者

せむしは己のなかに蟲を見ては責めようとする女の手を一度手荒く掃い退けた。一度掃うと、次からは声を荒げて掃わずにはいられなくなった。 掃い、掃い、掃っても掃ってもどこまでも女が諦めないことを、見るも厭わしい怖ろしいものがごく身近に居るとき、背…

背に蟲

二十にもならぬうちに、背は弓の引き成りのように曲がっていった。伸ばせぬわけではなく病でもないが、胡坐をかき膝に肘立てじっと考えるか寝るか馴染んだ書き物を飽かず読むことを繰り返すうちに、そのようになった。背がよいあんばいに丸まると、そのまま…

不具

夫に尽くし子を愛しみ親戚とも縁戚とも近隣とも誠実に付き合う女がいた。 市の通りを女と供に歩いていたあるとき、女が道の片側からぐっと顔を背けた。何かを見るために顔を向けるしぐさと何かを見ないために顔を背けるしぐさとを人はいつからか見分ける。背…