2010-01-01から1日間の記事一覧

鍋に札

子猿が帰った数日の後、陽明るいうちから寝ていると、堂の扉がまたこつこつと鳴り、身を起こしたせむしの足元へ白くもなく子でもないふつうの茶毛の猿が頭を何度も下げながら歩み入ってきた。 黙っていると、茶毛の猿は人にたがわぬ流暢な言葉で、眷属が世話…

子猿

ある夕、夜中のような暗さの、ひどい雨風となった。 堂の扉をぴたりと閉め灯りも付けず寝ていたが、扉の向こうに、こつこつこつこつと小石のぶつかるような音を察し、起きあがって扉を細く開けてみた。すきまから毛毬のようなものが転がり入ってきた。濡れす…

せむし

せむしは人の道を歩かないことにした。人に出くわしそうな道は横ぎるだけにして、もっぱら歩くのは木立のなかと背丈の伸びた麦の畑のなかだけとした。